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スペシャル対談

健康保険の未来のためにあしたの健保プロジェクト

中田

国民皆保険が危機的な状況に陥っていると言われています。
具体的には、どのような問題があるのでしょうか。

白川

問題の背景にあるのは、日本が超高齢社会になったことです。年齢が上がれば、当然、医療費が増えますよね。実際に、65歳以上の方の医療費は、65歳未満の方の医療費に比べて4倍以上です。したがって、高齢化が進むと、その分、医療費がかさむことになります。では、その医療費がどのように支えられているかご存知ですか?

白川修二(しらかわしゅうじ)健保連副会長 1948年生まれ。1971年、東芝入社。2007年、東芝健康保険組合理事長。2009年、健保連常務理事、2010年同専務理事就任、2014年同副会長に。

中田

私たち国民、一人ひとりが健康保険料(医療保険)を支払うことで、支え合っていますよね。

白川

その通りです。日本には、大きく分けて5つの公的医療保険(保険者)があります。われわれの健保組合、協会けんぽ、国民健康保険、共済組合、後期高齢者医療制度です。日本に住んでいる人は誰でも、このいずれかに加入し、そこに健康保険料を納めています。これが国民皆保険といわれるものです。そして、病院で受診した際の医療費は、受診者が1~3割を負担し、残りの7~9割を各医療保険者が負担する仕組みになっているわけです。
しかし、今、少子高齢化で保険料を納める現役世代の数が減っていくなか、高齢者の医療費は激増しています。つまり、医療保険制度(保険者)の財政が非常に厳しくなっているのです。この状態が続き、医療保険制度(保険者)が立ち行かなくなれば、国民皆保険も立ち行かなくなるのは必至です。

中田

健保連が発表した2014年度の健保組合予算集計結果では、具体的にどれくらい厳しい数字が出ているのでしょうか。

中田有紀(なかだあき)フリーアナウンサー 1973年生まれ。青森放送アナウンサーを経て、2001年からフリーに。現在は日本テレビ系列「Oha!4 NEWS LIVE」の朝の顔としてメインキャスターを務める他、テレビやラジオで活躍している。

白川

2008年度に、医療保険に関係する法律の大改正が行われました。この時に現在の高齢者医療制度が発足したのですが、それ以降、高齢者医療に対する健保組合の拠出金負担額が大きく増えました。健保組合では、2008年から2014年までの計7年間で、毎年3000億円から5000億円もの経常赤字を出しています。さらに問題なのは、これから先も、高齢者の医療費は増加の一途をたどるわけですから、高齢者医療制度を見直さなければ、この赤字は増す一方だということです。

中田

健保組合の財政が厳しくなると、企業やサラリーマンにはどのような影響があるのでしょうか。

白川

健保組合の財政は、企業とサラリーマンが支払う保険料で成り立っています。保険料は5割を企業が負担し、残りの5割をサラリーマンが負担する仕組みになっています。高齢者医療への拠出が増える分を、保険料の引き上げで補うしかありません。高齢者医療への拠出のための引き上げを続けてきた結果、2007年から2014年までの7年間で、保険料は約8万3000円も増えているのです。企業もサラリーマンも1人あたり4万1500円の負担増。これは、企業の業績においてはマイナスの影響ですし、家計にとってもかなり大きな負担増です。これはもはや限界の域に達しているといっても過言ではありません。

中田

7年間で8万3000円も増えているとなると、今後もさらに不安になりますね。これだけ負担が増えていると、額面の給与が増えたとしても、給与から天引きされる保険料が上がるわけですから、手取りの額は変わらないもしくは減ってしまうということもあるのではないでしょうか?

白川

そうですね。健保組合には被保険者が約1,500万人、その家族を含めると約3,000万人の加入者がいます。健保連では、被保険者の皆さんの平均賃金(標準報酬額)を把握しているのですが、実は、リーマンショック以来、下降の一途をたどり続けています。今現在もなお、リーマンショック前の水準には戻っていません。そうしたなかで、保険料の負担だけが増えているわけですから、それは企業の業績のみならず、家計も逼迫して当然です。しかしながら、今のままでは、今後も保険料を上げざるを得ません。

中田

なるほど。現状を打破するために、健保連ではどういったことをお考えなのでしょうか。

白川

単刀直入にいうと、高齢者医療に対して公費(税金)を投入していただきたいと考えています。健保組合の運営は、ほぼ100%、保険料のみで成立していますが、他の医療保険制度(保険者)には公費が投入されています。例えば、国民健康保険は5割程度が公費でカバーされています。協会けんぽも16%くらいは国からの助成金で運営しています。ここで健保組合にとって何が負担になるかというと、健保組合の保険料収入のうち、45%も高齢者医療に拠出している点です。
保険とは本来、自らの安心を守るために保険料を支払い、それが100%ではないにせよ、自分に還元される制度です。しかし、現状においては、保険料の45%は支払った人とは関係のないところに使われており、第2の税金のようになってしまっているわけです。健保連では、随分前から、高齢者医療は国民全体で支えるべきだと主張しています。しかし、支えるにしても、このままでは支える側が倒れてしまいます。そこで、公費の投入が必要になるわけです。公費を投入するためには財源が必要ですから、消費増税によって生まれる財源の中から、高齢者医療に対する公費を確保してほしいというのが健保連の要望です。

中田

現在の消費税は8%ですが、来年10月には10%に引き上げられますよね。10%になった際の消費税の使い道は今年度内に決まるわけですから、そのタイミングで健保連の要望を国や国民の皆さんに理解していただく必要がありそうですね。

白川

はい。8%から10%に引き上げた際に生まれる財源は5兆円強といわれています。この財源を社会保障に充てることが決定されていますので、その中から、高齢者医療に対する公費を投入していただきたい。これに対して、できるだけ多くの皆さんにご理解いただきたいとの思いから、健保連では「あしたの健保プロジェクト」という活動を今年からスタートさせました。

中田

「あしたの健保プロジェクト」の具体的な内容を教えて下さい。

白川

高齢者医療に対する拠出金制度は、非常に複雑な計算式からできており、一般の皆さんには理解しづらいものになっています。したがって、健保連としては、第一に「より多くの皆さんに現状を正しく認識し、理解していただくこと」、第二に「消費税10%段階での使い道を決める国会議員の先生方や、厚生労働省、財務省などの関係省庁に対して、われわれの考えや主張を届けること。それと同時に、企業や被保険者の皆さんからも、地元選出の国会議員等に対して、健保連と同様のアピールをしていただくこと」が重要であると考えています。つまり、「あしたの健保プロジェクト」という1つの活動を通じて、医療保険制度の現状理解と公費投入の訴求を進めていこうというものです。このプロジェクトの中心の1つとしてあらたにWEBサイトを立ち上げました。健康保険の基礎知識をわかりやすく解説したコンテンツや、有識者のコラム・対談、給与明細からわかる今後の健康保険料シミュレーションなどのコンテンツを用意し、より多くの人に対する継続的な理解促進につなげていこうと思っています。また、健康保険に関するアンケートや、健保連の主張への賛同意思表明ができるコンテンツもあります。皆さんの意思や思いを数字でわかりやすく可視化することで、大きなアピールにつなげていきたいと思っています。

中田

盛りだくさんのコンテンツで、私たち一人ひとりの理解も深まりそうですね。国民皆保険を維持するためにも、まずは私たち一人ひとりが、自分が支払っている保険料や、その使われ方に関心を持つことがとても大切なんですね。

白川

そうですね。今、医療費の本人負担は3割が一般的ですから、医療費を重く感じていない人が多いのだと思います。しかし、実際には、残りの7割は保険料でカバーされていることをご理解いただきたい。7割の部分も、実際は自らが保険料として支払っているのですが、給与から天引きされているために、自分のお金という感覚があまりない。ですから、医療費は、窓口で支払う3割分の額ではなく、7割を合わせた10割の額で考えるべきです。そうすれば、増え続ける医療費を抑えるような行動をとりやすくなると思います。

中田

増え続ける医療費を抑え、国民皆保険を維持するために、私たち個人にもできることがあれば教えて下さい。

白川

まずは、医療の適正受診にご協力いただきたいですね。たとえば、就業時間に通院ができないという理由だけで、就業後の夜に救急病院に行く方がいらっしゃいます。あるいは、深刻な症状ではないのに救急車を呼ぶ方もいらっしゃいます。いずれの行為も通常の医療費よりも割増しになりますから、こうしたことは控えていただきたいと思います。また、病気やケガの治療中に、「医師との相性がよくない」、「もっと効く薬があるのではないか?」といった理由で、病院をはしごするようなことも、医療費がかさむ原因になります。要するに、医療保険制度の財政が逼迫していることにご理解いただき、皆さん一人ひとりが医療費の節減に協力してほしいと考えています。

中田

医療と医薬品は切り離せないものだと思いますが、医薬品においても個人で工夫できることはありますか。

白川

よくあるのが、例えば90日分の薬を出してもらって、30日分しか服用せず60日分を無駄にするというようなケース。こうした無駄が起きないようにするためには、受診者自らが病院に申し出て、医師と相談をしていただきたいと思います。また、同じ効能で値段が安いジェネリック(後発医薬品)もありますから、服用する薬にジェネリックがないかどうかを確認していただけるといいですね。

中田

ちなみに、日本では年間でどれくらいの医療費が発生しているのでしょうか。

白川

日本全体で年間約40兆円の医療費がかかっています。その内、約6割が65歳以上の方々の医療費です。つまり、20数兆円という莫大な金額が高齢者医療に注がれている計算になります。

中田

大変な額ですね。これを、だれが、どう負担するのかを、早急に見直す時期に来ているということなのですね。

白川

約800万人いるとされる団塊の世代が来年には皆さん65歳以上となりますから、これから10年以上、ずっと医療費は膨らみ続けます。したがって、本人負担の割合をどうするのか、医療保険制度(保険者)の負担をどうするのか、そして、国はどれくらいの税金を投入するのかという負担構造をきちんと考えていかなくてはなりません。
年金は10年先、20年先の話ですが、医療保険は今年や来年の話です。しかも、消費税の引き上げなど、あらたに財源が生まれるときにしか税の投入は見込めません。そういう意味で、高齢者医療費の負担構造については、早急に国全体でコンセンサスをとっていく必要があります。高齢者医療の負担構造にある程度の見通しがつけば、国民皆保険制度もしっかり維持されていくと思われます。

白川修二(しらかわしゅうじ)健保連副会長
1948年生まれ。1971年、東芝入社。2007年、東芝健康保険組合理事長。2009年、健保連常務理事、2010年同専務理事就任、2014年同副会長に。

中田有紀(なかだあき)フリーアナウンサー
1973年生まれ。青森放送アナウンサーを経て、2001年からフリーに。現在は日本テレビ系列「Oha!4 NEWS LIVE」の朝の顔としてメインキャスターを務める他、テレビやラジオで活躍している。

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