昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ

株式会社ローソン

 「私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします」を企業理念に掲げているローソン。同社を母体とするローソン健康保険組合では、この企業理念に基づき、幸せとは健康長寿を目指すことであると考え、ローソングループの従業員とその家族の健康を支えるために、母体企業のローソンと連携してさまざまな施策に取り組んでいます。そこで今回は、施策実施の目的や内容、そして今後の展望について、ローソン健康保険組合常務理事の山口英明さんと株式会社ローソン理事執行役員の日野武二さん、常務執行役員の宮﨑純さん、マーケティング本部の渡部大介さんにお話を伺いました。

【ローソン健康保険組合の概要】
加入事業所数:6事業所(2014年3月末)
加入者数:1万2998名(2014年3月末)

──ローソン健康保険組合が母体事業所のローソンと共同で従業員の健康づくりに取り組むようになった背景をお聞かせください。


ローソン健康保険組合
常務理事 山口 英明 さん

 ローソン健康保険組合では、効果的な健康サポートを実施するために、レセプトや健診結果のデータを活用して分析を行っています。ローソンの被保険者は、業務の関係上、30歳代から40歳代の男性が多く、また、交代制勤務などで不規則な生活になることもあり、男性の肥満率が39.2%と高いという特徴があります。

 このため、2010年度は、約6000人分の健診結果のうち、約1400人に日本人間ドック学会が示す基準を超える数値が見られました。さらに、レセプトデータと突き合わせた結果、1400人中1200人は医療機関を受診せずに病気のリスクを抱えたまま放置していることが分かりました。そこで、重症化を予防するために、健保組合から受診勧奨レターを送りましたが、それを受けて病院を受診した人はわずか37人でした。そうした状況のなか、脳梗塞で倒れて緊急入院したり、透析治療を必要とする人が出てきてしまいました。

 看過できない状態に、健保組合だけで病気のリスクが高い人へ重症化を予防する対策を講じること(ハイリスクアプローチ)に限界を感じ、母体事業所のローソンの人事部に協力をお願いしました。

 そして、人事部との共同実施が可能な事業所については、産業医と人事担当者が相談しながら、ハイリスクアプローチを行う対象者を選定し、事業所の担当者が受診勧奨を行いしました。さらに、事業所全体のリスクを下げるために、ポピュレーションアプローチにも注力し、従業員やその家族など、加入者全体の健康意識の向上を目指しました。

──具体的には、どういった取り組みを始められたのですか?


株式会社ローソン 理事執行役員
ヒューマンリソースステーションディレクター
日野 武二 さん

 加入者全体の健康意識の向上を図るためには、被保険者に対して、企業の労働安全衛生委員会が全国各地で開催する「健康セミナー」に参加するよう促したり、健保組合のホームページから面談や電話による健康相談の申し込みができるようにしました。

 そのほか、「アクションチェックプログラム」を構築しました。アクションチェックプログラムとは、ウェブ上で食事や運動生活活動、嗜好、睡眠・休養、ストレス、健康管理の6項目、全37問で構成された生活習慣に関する質問(アクションチェックリスト)に回答すると、自身の生活習慣の状況がレーダーチャートで可視化できるというものです。この結果に基づいて、個人ごとに「1日8000歩以上歩く」、「野菜を積極的に食べる」などの目標を決めて、60日間生活改善に取り組むプログラムです。

 アクションチェックリストの2010年度の集計結果をみると、「生活習慣を改善したい」と回答した人が95%でしたが、実際には、「毎日朝食を食べていない人」は36%、「夕食を午後9時以降に食べている人」は69%、「30分程度の軽い運動を週2回以上行っていない人」は79%など、回答と行動に開きがあり、生活改善のための対策を講じる必要性が明らかになりました。

 さらに、事業所と連携した施策として、健診の結果、血糖・血圧・肥満でリスクが高い従業員を対象に「健康アクションプラン」を実施しています。健康アクションプランとは、ローソンの店頭にある「Loppi」で記録ができる通信対応歩数計と、ローソンが独自に開発した「健康アクションプランアプリ」を対象者に配布し、各自がスマートフォンで食事の内容(カロリー)、歩数、体重を記録できるようになっています。

 このデータをもとに、生活改善目標を設定したり、月次レポートなどを閲覧したりできます。そして、目標を達成すると、特定保健用食品などと交換できる「ごほうびクーポン」が配信されます。さらに、入力されたデータは、保健師も見られるようにし、電話による保健指導を受けることができます。

 2012年度は、リスクを保有する対象者442名のうち、314名がアクションプランに参加しました。健保組合と事業所が連携して、対象者への呼びかけを事業所の担当者が行うことで、より多くの人が参加してくれるようになりました。また、健診結果においても、13項目中、11項目において数値の改善が見られました。

──健康サポートにおけるさまざまな取り組みで最も功を奏しているものは何でしょうか。


株式会社ローソン 常務執行役員
コミュニケーションステーションディレクター
宮﨑 純 さん

 もっとも成功したと考えられる施策は、人間ドック受診者数の向上を図り、病気のリスク保有者を特定することを目的に、2010年度から35歳以上を対象に人間ドックにかかる費用負担をゼロにしたことです。そして、2012年度には、これまで書類でやり取りしていた受診予約や利用券の発行をウェブ上でできるように改善したことによって、人間ドックの受診者数は、それまでの150人程度から約7倍の1100人程度にまで急増しました。

 また、2010年度から2012年度の健診結果のデータをもとに、肥満・非肥満や血糖、脂質、血圧などのリスク度合いで健康分布図を作成してみると、たとえば、40歳未満では病気のリスクがないとされる人たちの割合が2.9%増加し、40歳以上では5.2%も増加するなど、いい変化が表れてきました。一般的に病気のリスクは加齢とともに高まることから、受診者数の増加によって健康意識が向上していることが伺えます。さらに、リスク保有者を把握できるようになったことから、対象者に対する保健指導や受診勧奨が行えるようになったことは大きなメリットだと思います。

──母体事業所のローソン側の取り組みにはどういったものがありますか?

 ローソン人事部は健保組合と連携して、企業や労働組合に対して健康診断の早期実施や、健診結果における再検査対象者に対する受診促進を働きかけたところ、それほど受診状況に変化が見られませんでした。そこで、ローソンでは人事部と労働組合が協議し、新賞与基準を設定しました。新賞与基準とは、健康診断未受診者や、再検査の必要があるにもかかわらず医療機関を受診しなかった従業員とその上司に対し、賞与を減額するというディスインセンティブ制度です。

 制度の導入以降、健康診断の受診率は100%に達し、2013年度は再検査対象者1786名のうち、1765名が病院を受診しています。

 ディスインセンティブ制度の導入目的は、賞与を減らすことではなく、従業員が病気になるリスクを抑え、健康を維持できるようにすることです。制度の導入に伴い、従業員に向けてアンケート調査を実施したところ、約8割の人が賞与でのディスインセンティブについて、「いいことである」と回答していることから、一定の理解が得られていると考えています。

──今後、何か新しい施策は考えていらっしゃいますか?


株式会社ローソン
マーケティング本部 渡部 大介 さん

 2013年、ローソンは「マチのほっとステーション」から「マチの健康ステーション」として新たな出発をしました。つまり会社自体が健康を重視する方向にシフトしたと言えます。また、自治体と提携して、ローソンで健康診断や健康相談が受けられる取り組みも始めています。さらに現在、健康アクションプランのアプリをリニューアルし、他の健康保険組合や自治体にも利用していただくために、一般市場向けに展開していきたいと考えています。

──ローソン健保組合の財政状況についてお聞かせください。

 ローソン健保組合は、2004年4月1日に設立しました。設立時の保険料率は7.8%で、全国健康保険協会(当時は政府管掌健康保険)は8.2%でした。現在も加入者の特徴に応じた効果的な健康サポートなどの取り組みを実施し、7.8%を維持しています。全国健康保険協会は10%に上がっていることから、ローソン健保組合を設立せず、そのまま全国健康保険協会に加入していたと仮定した場合、保険料は32億円の負担増になる計算です。会社の利益で考えると16億円の負担増になるので、金額的な面からみてもローソン健保組合を設立した意義は大きいといえます。

 しかし、健康サポートによって医療費を抑制するなどの努力を続けても、財政状況は極めて厳しく、昨年初めて3億円の赤字を計上しました。この赤字分は別途積立金から補てんして、保険料率の引き上げを免れています。おそらく今年も別途積立金を取り崩すことになるでしょう。ローソン健保組合では、前期高齢者への拠出金がピークに達する2015年度が正念場で、このままでは保険料率を引き上げせざるを得ません。

──国や制度に期待すること、また、あしたの健保プロジェクトへのメッセージをお願いします。

 ローソン健保組合だけではなく、どこの健保組合も財政が厳しくなっています。前期高齢者医療に公費が投入されないと、健保経営が成り立たなくなるのは必至です。

 一方で、医療費の削減に向けた取り組み、つまり、健康寿命を延ばす取り組みを、国全体で進めていく必要があると思います。たとえば、普段から健康を維持するための努力し、医療費を使わなかった人に対して、インセンティブを与えるような仕組みを、国が主導してつくってくれるといいですね。

 さらに、私たち1人ひとりが、医療費の問題に関心を持つことも大切だと思います。今のままでは、いずれ健康保険料は上がり、働く世代の給料が目減りしていくわけですから、本来ならもっと多くの人たちが関心を寄せるべきことだと思います。そういう意味で、あしたの健保プロジェクトが、より大きなうねりとなって、多くの人たちが医療費の問題に目を向けてくれることを望んでいます。

 ローソン健康保険組合 常務理事 山口 英明 さん
「具体的な取り組みを開始してまだ数年ですので、健保組合としての最終的な目標である医療費削減には至っていませんが、いずれは医療費の削減につながると信じ、今後もさまざまな取り組みに尽力していきたいです」

 株式会社ローソン 理事執行役員ヒューマンリソースステーションディレクター 日野 武二 さん
「ローソン人事部としての最終的な目標とは、社員が健康で長く勤務できることです。健康はお金では買えませんから、ディスインセンティブを導入してでも、健康に対する取り組みを進めていく意味はあると思っています」

 株式会社ローソン 常務執行役員コミュニケーションステーションディレクター 宮﨑 純 さん
「コンビニは社会の課題解決型産業です。これまでは『便利さ』を提供してきましたが、今日の課題が高齢化社会であることを考えると、今後は『健康』に貢献できるものを提供していくことが、私たちの使命だと思っています」

 株式会社ローソン マーケティング本部 渡部 大介 さん
「ローソンとしては健康的な食の販売で企業活動ができるということで良し、健保組合としては組合員の皆さんが健康になり医療費が抑えられるということで良し、お客様はローソンが展開する健康的な食に触れ、ますます健康になれるということで良し。そんな『三方良し』を目指したいです」

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