昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ

マンパワーグループ株式会社

 マンパワーグループは人材サービスのグローバルカンパニー、ManpowerGroup™ の100%出資の日本法人で、日本で初の人材派遣会社です。同社の社員は約1,400人ですが、同社に登録し、常用労働とみなされる派遣社員(短時間就労者を除く)は約2万人います。正社員及び多種多様な働き方をする派遣社員の健康を守るために同社が実施している施策の内容や課題などをお話しいただくとともに、同社をはじめとした多くの人材派遣会社が加入している人材派遣健康保険組合の方がたにも設立の背景や現状、そして今後の展望などについてお話を伺いました。

【人材派遣健康保険組合の概要】
加入事業所数:314事業所(274社)(2015年2月末)
加入者数:42万6735名(2015年度予算)※被扶養者6万4522人を含む

──人材派遣健康保険組合(はけんけんぽ)が設立された経緯についてお聞かせください。

はけんけんぽ ▼

 日本人の働き方が多様化し、派遣業界の規模が大きくなったことから、派遣業界の社会的地位の向上と、派遣社員の福利厚生の充実を図るために、マンパワーグループ様をはじめとした派遣業界大手と日本人材派遣協会が協力し、2002年に、はけんけんぽが設立されました。

 派遣社員の就労形態や契約期間は、短期的で断続的であることが多く、同一人物が複数の異なる派遣会社に登録していることもあります。このため、出入りが頻繁に生じます。こうした業界の特性から、得喪と呼ばれる「取得」と「喪失」によって、被保険者36万人のうち年間で20万人程度が入れ替わります。設立までは政管健保(現協会けんぽ)に加入していた事業所が大半でしたが、その人数分の事務処理をこなすことは非常に煩雑で、例えば保険証の発行に多くの時間を要するなど課題も多くありました。そこで、効率的な事務運用を目的に、業界独自に健保組合を設立することになりました。

 また、リーマンショック以降、派遣契約の打ち切りなどの問題も発生し、非正規雇用は不安定であるとか、本来は皆正社員であるべき、正社員を希望しているという決めつけの風潮が強くなりました。一方で、派遣という働き方を自ら選択する人もたくさんいます。したがって、正規・非正規という区別ではなく、多様な働き方の1つである派遣制度の認知度を世の中に高めたいという思いもありました。はけんけんぽを設立することによって、派遣就労の人たちが安心して働けるようになったと思っています。

マンパワーグループ ▼


マンパワーグループ株式会社 専務執行役員
管理本部長 河野 文雄 さん

 膨大な数の派遣社員の加入・脱退手続きが必要になるため、一連の手続きには相当の時間がかかっていました。そうなると、短期間で働いている派遣社員などは、加入手続きが完了してまもなく脱退というケースもあります。こうした同じような境遇にある会社が集まって効率のいい健保組合の運営ができたらいいとの思いがあり、はけんけんぽ設立の旗振り役をさせていただきました。

 また、当社では、2001年に障害者雇用推進のためのジョブサポートパワー株式会社という特例子会社を設立したことも、はけんけんぽのような存在が必要になった理由の1つになっています。一般企業では、社員の2%以上の割合で、障害のある方を雇用する義務がありますが、派遣会社の場合、社員数に加え、派遣社員も含めた母数に対する2%であるため、障害のある方の社員規模も大きくなります。こうした派遣業界が持つ共通の課題を踏まえて働きやすい環境を整えるためには、業界独自の健保組合が必要でした。

──マンパワーグループ社では、派遣社員の健康をどのように管理されているのでしょうか。また、どういった点でご苦労されているのかについてもお聞かせください。

マンパワーグループ ▼


マンパワーグループ株式会社 健康管理センター
センター長 石田 美子 さん

 現在、私どもの業務は、派遣事業はもとより、業務委託・請負のビジネスや採用代行、再就職支援など多岐に渡ります。そのため、私どもは自らを「派遣会社」ではなく、「総合人材サービス会社」と呼んでいます。当社において、こうした幅広い業務を提供する正社員が約1,400人います。また、当社に登録して稼働している派遣社員、約2万人もまた、当社の「社員」です。

 派遣社員は、短期だと数日単位の契約で働くこともあれば、多くの場合3カ月以上の契約で働いています。毎月平均で1,500人ほどの社員が入退社で入れ替わるとお考えください。したがって、健康診断(以下、健診)の受診については、働く期間に応じて受診していただくなど、一定の基準を設けています。一般企業であれば1,000人でも1万人でも健診の受診率を限りなく100%に近づけることが可能だと思います。実際、当社の正社員である約1,400人については、健診受診率はほぼ100%です。しかし、当社の派遣社員については、契約期間も働く場所もまちまちという特質上、受診率は56%にとどまっています。それでも、健診の受診率を高めることが、全社員の健康管理には欠かせないことから、一昨年、基準を見直し、年間で3カ月間だった健診受診期間を、2倍の6カ月に延長しました。それでも派遣社員は、「平日の受診は派遣先に迷惑がかかる」ことや「原則として派遣はノーワーク・ノーペイのため、勤務日に健診時間を使いたくない」ため、土日の受診希望者が多いのですが、土日に受診できる健診機関が十分でないため、派遣社員の健診受診率の向上には、毎年、頭を悩ませています。

 派遣社員というのは、1人ひとりの諸条件が異なるため、派遣社員の状況に合わせた健康管理が求められると考えています。

──はけんけんぽとしては、具体的にどういったところに工夫しているのでしょうか。また、どのような思いで事業に取り組んでいるのかお聞かせください。

はけんけんぽ ▼


人材派遣健康保険組合
業務部次長兼保健事業課長 佐藤 貴弘 さん

 得喪の事務、保険証の発行についてですが、政管健保(現協会けんぽ)のときには、保険証が事業所の担当者に届くまでに一定の時間がかかっていました。当健保組合としては、そこを解消したいとの思いから、業界では初めて電子申請を可能にしました。これにより、取得の届け出がその日に何件あっても、翌日には保険証を発行できるようになりました。

 また、当健保組合に加入されている事業所の皆さんは、人材ビジネス業界として多くの個人情報を扱っています。こうした膨大な個人情報を安心してお預けいただきたいとの思いから、2004年、健保組合では初めてプライバシーマークを取得しました。

 保健事業としては、電話による健康相談・メンタルヘルス相談の窓口を設置しています。派遣社員の皆さんも利用しやすいよう、24時間・年中無休になっており、実際、数多くの方に利用いただいています。

 また、われわれのような総合健保にとっては、加入いただいている事業所はお客様ですから、限られた費用で、どういったサービスを提供できるかというのを、常に考えなければなりません。協会けんぽから移ってこられる事業所も多いので、差別化を図るために、協会けんぽでは実施していないことを実践しています。健診を事業主と当健保組合で共同実施し、双方で費用負担していることは、その1つだといえます。当健保組合の加入者は全国に点在し、受診者数も多いため、そのスケールメリットを活かした費用交渉ができます。全国500以上の健診機関と契約をしていることも、当健保組合の強みだと自負しています。

 なお、被保険者の多くが派遣社員であることを考慮し、土日に受診できる健診機関の数を増やすことに注力しています。いわゆるメタボ健診と呼ばれる特定健診・特定保健指導については、後日あらためて指導を受ける煩わしさを解消するために、健診と同時に特定保健指導が受けられるよう健診機関に協力要請をしています。

 2015年度から始まるデータヘルスについては、すでに1年半前から前身となる「生活習慣病発症・重症化予防対策」として開始しています。これはすでに効果も出ており、一層推進し、医療費削減につなげたい考えです。データヘルスを成功させるためには事業主との協働が重要ですから、各事業所とのコミュニケーションを大切にしながらデータヘルスを推し進めたいと思っています。マンパワーグループ様に限らず、派遣社員の皆さんは健康でないと、次の契約更新をしてもらえないこともあります。したがって、派遣業界全体のためにも、1人ひとりの派遣社員が派遣先で、元気に仕事を続けるためのお手伝いをしていきたいと考えています。

──はけんけんぽの事業内容に対して、社員・派遣社員の皆さんからは、どのような声が聞かれますか。また、保健事業の効果についてお気づきのことがあればお聞かせください。

マンパワーグループ ▼


(マンパワーグループ特例子会社)
ジョブサポートパワー株式会社 事業本部長
小川 慶幸 さん

 はけんけんぽには、私どもの業界ならではの状況をご理解いただいたうえで、ご尽力いただいているので、大変ありがたく思っています。おかげさまで、以前に比べれば健診受診率は上がっています。また、以前は、要再検あるいは要精密検査となっていても、自覚症状がない人などは放置してしまうケースも多く見られましたが、データヘルスなどで第三者から受診勧奨をされ、検査をし、早期治療につながっている人も見受けられます。「自分の健康状態の把握ができた」との声も聞かれるようになり、健康への意識が高まっているように感じています。今現在、要精密検査の社員がいないことが、いい方向に向かっていることの何よりの証拠ではないでしょうか。

 なお、派遣社員は女性の比率が大きいのも特徴です。一部自己負担はありますが、被保険者であれば安価で乳がん検診・子宮頸がん検診を受けることができるので、多くの人が受診しています。ただ、健診機関側の都合で、健診の日と同日に受診できないこともあり、そうなると、受診しない人が出てきてしまいます。今後、はけんけんぽには、そのあたりも考慮していただけるとありがたいですね。

──被保険者として、はけんけんぽとして、それぞれのお立場から望むことがあればお聞かせください。

マンパワーグループ ▼

 はけんけんぽの予算や決算書を見ると、保険料率のうち高齢者医療への支援とされる特定保険料率の負担が重すぎると感じています。また、はけんけんぽの設立当時は、派遣社員の平均年齢が若かったこともあり、医療費の支出割合が低く、保険料の負担も重くありませんでした。しかし、派遣社員の平均年齢が徐々に上がり、今は平均年齢が40歳近くになっています。つまり、はけんけんぽが出す医療費はおそらく増えていると思われます。これははけんけんぽに加入しているわれわれの保険料負担が増えることを意味していますから、そこは、私たち企業も努力をするので、はけんけんぽにも頑張っていただきたいところです。そのためにも健診の受診率を上げるような仕組みを整え、例えば、健診時の検査項目を充実していただくなどして、早期発見・早期治療を目指していくことが重要です。

はけんけんぽ ▼


人材派遣健康保険組合
常務理事 伊藤 康子 さん

 当健保組合では、現行の高齢者医療制度が始まった2008年を境に、約250億円だった拠出金が450億円以上に跳ね上がり、財政が大きく悪化しました。マンパワーグループ様がおっしゃる通り、それまでは比較的低い保険料率で運営することが可能だったのですが、保険料率を引き上げざるを得ませんでした。派遣社員の皆さんは概ね時間給制なので、一般企業の皆さんよりも給与が低い傾向にあります。具体的な数字では、当健保組合の被保険者36万人の平均標準報酬月額は約24万円。派遣会社の社員も含めた1人当たりの平均年収は、ボーナスを含めても300万円に満たないのです。いくら高齢者医療を現役世代で支えるといっても、報酬の低い現役世代にとっては負担が重いのではないでしょうか。

 協会けんぽは、中小企業が多く財政的に大変だと聞きますが、協会けんぽ加入者の平均報酬よりも、当健保組合の被保険者の平均報酬のほうが低いにもかかわらず保険料率を上げなくてはならないことは、歯がゆい思いです。当健保組合のような総合健保は、派遣業界以外でも、IT関係やメーカーなど同業種が集まって助け合う組織です。総合健保の中には中小の事業所を多く抱えるところも多く、財政状況はひっ迫しています。したがって、これは健保連への要望になりますが、総合健保の実情や声も汲んだ制度づくりや施策をお考えいただきたいと思っています。当健保組合の場合には特に介護保険料についても、報酬に見合った負担構造にしていただけると助かります。

──あしたの健保プロジェクトへのメッセージをお願いします。

マンパワーグループ ▼

 当社は、派遣ビジネスから人材総合ビジネスへと、すそ野を広げていますが、まだまだ派遣社員が圧倒的に多いのが現状です。私どもの企業収益は、派遣社員がどれだけ働いてくださるかで変わります。つまり、派遣社員がいかに健康であるかは、企業収益に直結してくる問題なので、はけんけんぽとともに社員・派遣社員の健康管理がしっかりできる体制をつくっていきたいと思います。また、はけんけんぽは健康な加入者が多いとなれば、それはある意味、派遣という働き方そのものを肯定することにもなると思うので、当社も自助努力を怠ることなく、最善を尽くしていきたいです。そのためにも例えば、他社や他健保組合の加入者数1人当たりの医療費がどれくらいかなど比較材料があると、いい意味で切磋琢磨できるのではないでしょうか。

はけんけんぽ ▼

 保険料率を毎年のように上げざるを得ない状況のなかで、当健保組合では費用対効果をみて、保健事業をやむなく削ってきました。この5~6年でいうと、インフルエンザ予防接種費用補助事業の廃止、情報提供のツールだった機関誌の廃止、あるいは在籍期間に応じた健康グッズの贈呈も廃止しました。乳がん・子宮頸がんの検診も以前は無料でしたが、一部を加入者に負担をいただくようになりました。現状では、保健事業費はピーク時に比べて3分の1になりました。極限まで削減してきた要因の一つは言うまでもなく、高齢者医療への負担増によるものです。加入者の健康の保持、増進を図るという保険者としての努力が果たせなくなること、また協会けんぽを超える保険料率で財政がひっ迫し、存続の危機に瀕している健保組合も年々増えています。健保組合は、総合や単一といった隔たりなく、健保連・健保組合が一枚岩になって国に要望していくことを願っています。

マンパワーグループ株式会社 専務執行役員 管理本部長 河野 文雄 さん
「当社には、派遣先企業のニーズに合わせた多種多様な派遣社員がいます。したがって、派遣社員の健康管理も、それに合わせて柔軟に対応していく必要があります」

(マンパワーグループ特例子会社)ジョブサポートパワー株式会社 事業本部長 小川 慶幸 さん
「社員・派遣社員の健康なしに、当社の企業経営は成り立ちませんから、はけんけんぽさんとは風通しのいい関係を築き、言いたいことはなんでも言わせていただいています」

マンパワーグループ株式会社 健康管理センター センター長 石田 美子 さん
「派遣先企業の繁忙期に派遣されることが多い派遣社員は、平日の健康診断には行きづらいので、土日に受診できる健診機関がもっと増えてほしいと思います」

人材派遣健康保険組合 常務理事 伊藤 康子 さん
「データヘルスに関して各事業所と連携していくには、まず、当健保組合の職員1人ひとりがデータヘルスについての理解を深めることだと思い、2015年度はそれを課題の1つに掲げています」

人材派遣健康保険組合 業務部次長兼保健事業課長 佐藤 貴弘 さん
「当健保組合のデータヘルス事業は、入院を伴う脳梗塞や心筋梗塞などの重い生活習慣病の発症抑制を目指しており、発症率抑制としての効果が出てきています。一層推進するためには事業所との連携、コラボヘルスも欠かせなく、現在は数事業所と連携しているところですが、これを広めたいと考えています」

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