昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ

株式会社ディスコ

 「切る」・「削る」・「磨く」の技術で最先端を追究し続ける株式会社ディスコは、世界トップシェアを持つ精密研削切断装置メーカーです。2015年発表の「働きがいのある会社」ランキングでは、従業員1000人以上の部門で第6位となりました。「人は財産」との考えから、「人材」を「人財」と表記するほど社員とその家族を大切にする同社と健保組合の皆さんに、社員の健康づくりに尽力することになった背景や具体的な取り組み内容などについて、お話しいただきました。

【ディスコ健康保険組合の概要】
加入事業所数:4事業所(2015年6月末)
加入者数:6,323名(2015年6月末) ※被扶養者3,060名を含む

──社員の健康づくりに力をいれることになった背景をお聞かせください

健保組合 ▼

 当健保組合が発足して10年になりますが、それよりも前から事業主側に「社員を大切にする」という思いがありました。事業主がワークライフバランスを重視するなかで、健康に対する意識も高まり、本社社屋には、フィットネスやマッサージルームなどが完備されたほどです。そして、すべてのベースになるのは健康であるとの考えから、当健保組合を設立し、健康への取り組みを推進してまいりました。したがって「コラボヘルス」という言葉を聞くようになる前から、当健保組合においては特に意識することなくコラボヘルスを始めていたというのが実情です。


株式会社ディスコ サポート本部
安全衛生チームリーダー 石井 秀明さん

【図A】企業文化は経営資源

ディスコ ▼

 近年、健康経営に対する取り組みが活発になっていますが、弊社の場合は世の中の流れとは関係なく、「社員を大切にする」という考えに基づいて具体的な健康活動を始めた結果、今でいう「健康経営」に該当するようになったという流れです。

 弊社には兼ねてより「企業文化は経営資源」との考えがあります。図Aにあるように、経営資源である「人」・「モノ」・「金」が良い状態であることを、花が咲いている状態に例えた場合、水や肥料が十分に与えられた良い土壌が必要不可欠になります。弊社では、1997年 にディスコとしての考え方や価値感を「DISCO VALUES」として明文化し、社員が価値観を共有できるようにしました。「DISCO VALUES」は多くの項目から成り立っていますが、いずれも「人」がベースに存在しています。つまり、「企業にとって『人』は財産であり、『人』を大事にしよう」という考えのもとで定められた「DISCO VALUES」が、図Aでいうところの水であり肥料であり、企業文化を良質化していく源になるという考え方です。ちなみに弊社では人は財産であるとの考えから、「人材」を「人財」と表記しています。


【図B】ディスコのあるべき人財像

 図Bは、ディスコのあるべき人財像を、やはり花に例えたものです。人財という花が大きく開く、つまり仕事において高いパフォーマンスを発揮できる状態をつくるためには、その花を支える強い茎が必要になります。強い茎とは、つまり「心身ともに健康な状態」のことです。このように、弊社が健康経営に取り組むようになった背景には、まず企業理念『DISCO VALUES』の根底にある「人を大切にしよう」という思いがあったからこそだといえます。

──具体的には、どのような保健事業を実施していますか。


ディスコ健康保険組合 常務理事 兼
事務長 小沼 久実子さん

健保組合 ▼

 当健保組合で実施している保健事業は健診、メタボプログラム、重症化予防など、一般的なものです。ただ特徴的なのは、保健事業のほとんどを事業主と一緒にやっている点です。例えば、婦人科検診は、健保組合が企画していますが、実際の運営は事業主側の社員である保健師が講習から実施までのすべてを担ってくれています。特定保健指導については「メタボ脱出プログラム」の名称で実施していますが、これも事業主側の保健師と当健保組合が一緒にプログラムを考え、一緒にプログラムを実施しています。また、月に1度はテレビ会議の場を設け、健保組合と各事業所にいる保健師とで情報交換をしています。「うちは今、こんなことをやっている」とか「今度、こんなことを企画しているので意見ください」といったやりとりをしながら、より充実した内容を目指して協力し合っています。

 なお、「メタボ脱出プログラム」は、特定保健指導の対象となっている人のなかから希望者を募って実施しています。6か月の間に計3回のプログラムを実施します。8人を上限としたグループワークになっており、初回では、自身の食生活や生活習慣を、みんなの前で発表して意見交換をします。そして、特定保健指導専門の委託会社の方から「この悪い生活習慣を改めないと、今後こんなリスクがありますよ」といった指導をしていただき、啓発ビデオを見て、各自が目標を立てます。第2回目は個人面談になっており、初回で立てた目標の達成率を伝えます。その際に、他の人の達成率も併せて伝えることで刺激を受けてもらい、中だるみのないよう目標達成に向けて気持ちを新たにしてもらいます。第3回目は再度グループワークを行い、そこで測定会を実施し、成果発表をしあって、その後に向けた抱負を宣言してもらいます。各回の間は3か月あるのですが、その間も月に1度はメールや電話で、保健師がフォローしています。


株式会社ディスコ サポート本部
安全衛生チーム 渡邊 真奈美さん

ディスコ ▼

 健保組合の事業を推し進めるために、弊社の保健師たちは、実際に現場で何が起きているかを健保組合にフィードバックしています。また、健保組合からも気兼ねなく事業主側への要望をあげてもらうようにしています。社屋の階を上がれば健保組合の事務所があるというアクセスの良さもコラボしやすい理由になっているのかもしれません。

 また、健康に関する取り組みという意味では、健保組合とは別に会社としても活動しています。弊社では毎年、経営方針として様々なことを決めるのですが、今年は、その取り決めにおいて「健康診断一級」というタイトルで、健康診断に関する活動をすることになりました。これは、健診結果の内容を、自分で読んで理解できるようになろうという取り組みです。健診結果には何が書いてあり、どの数値がどうなると、体に何が起きるのか、あるいは今の自分の健康状態はどうなのかというのを読み解く力をつけようというものです。大概の人は、健診結果を見ても細かい数値までは気にしていません。「要精密検査」の文字を見て、やっと危機感を持つわけですが、医療費の面からも、本人の健康面からも、そうなってからでは遅いのです。そこで、まだ許容範囲内の数値であっても、前年からの上がり幅を見て「このままだと来年はまずい」と事前に本人に気づいてもらうことが、この活動のねらいです。勉強方法としては、弊社の保健師が資料を作成し、部ごとで勉強会を開催してもらっています。あるいは、保健師が実施しているセミナーを受けて勉強する方法もあります。最終的には、保健師が作成した「健康診断一級テスト」を受け、一定の点数をとることを目標にしてもらっています。なお、これは経営方針としての活動ですから、事務局からお願いして活動してもらうのではなく、各部門長の責任において実施する活動になっています。

──「メタボ脱出プログラム」や「健康診断一級」などの成果はいかかですか。

健保組合 ▼

 メタボ脱出プログラムの成果については、希望して参加するくらい意識の高い人たちということもあり、基本的に一定の成果を出しています。事業所の数が少ないため、社員同士の距離感が近いことも成果に影響しているのかもしれません。本プログラムを始めて3年になりますが、途中離脱者は皆無です。また、ブログラム修了者に対しては、健保組合からプログラム修了時に測定した数値と、その後の健診結果を見える化して送り、「卒業時に比べてどうなっているか」が一目瞭然で分かるようにしています。

 また、本プログラムの参加者に限らず、社員全体の健康に対する意識は非常に上がっています。健保組合で今年実施した直近のアンケート調査では、社員の80%が「健康に気をつけている」と回答しています。来年は、今年以上に高い数字になるよう期待したいところです。

ディスコ ▼

 健康診断一級の取り組みは、現在進行中ですが、とても良いリアクションが返ってきています。勉強会では、自分の努力で改善が見込める血圧、糖代謝、肝機能など計10項目について、1つずつ丁寧に学ぶのですが、保健師のもとに「今は、どこも悪くないけれど、健診の結果から分かる自分の現状と、今後も健康であるために何に気をつけたらよいのかアドバイスをしてほしい」という依頼が、100名以上の社員から寄せられています。これは、勉強会を通して、社員が自分の健康に関心を持ったという証拠だと思います。

 なお、保健師も弊社の社員ですから、企業理念である「DISCO VALUES」を念頭において、社員や健保組合とやり取りをしています。健保組合のみならず、保健師とも一体感を持って社員の健康に向けた取り組みができていることは、弊社が自慢できるポイントの1つだと自負しています。

──健診の受診率や健診に関して工夫している点についてお聞かせください。

健保組合 ▼

 事業主側の協力もあり、受診率は100%です。健診項目については、血液検査、ABC検査(胃がんリスク検診)なども入れて、人間ドックに近い項目が受診できるようになっています。昨年は、健保組合と事業主と産業医の3者でプロジェクトを組み、健診項目を見直して、現代に合った健診項目になるよう一部変更しました。

ディスコ ▼

 弊社では、社員に対して「個人の状態を表す指標にもなる健診を受けないということは、あってはならない」という厳しめのアプローチをしてきました。その甲斐あって、今では、社員のほうが「どんなに忙しくても、健診は必ず受けないと」という姿勢になっています。

 受診期間は毎年4月から翌3月までであり、毎月、社内に巡回健診に来てもらっています。もちろんその期間内であれば、社外で受診することも可能です。

──取り組みの周知方法と社員の皆さんの反応をお聞かせください。

健保組合 ▼

 一定の費用が必要な広報誌は、当健保組合ではつくっておりません。その代わり、事業主発行の社内報に健保の広報誌的な記事を掲出しています。その際、文字量をあまり多くせず、グラフやイラストを多めに使い、より分かりやすい形で読んでもらえるよう意識しています。

 メタボ脱出プログラムへの参加者を募る際も、社内報のページに参加した人の体験談やアンケート結果を記載し「皆さん頑張っています!次回はあなたもどうですか?」という感じで、広報しています。社内報は全社員に配布されるためリーチ率が高く、大勢の社員が目にするので、プログラムに参加している人にとってもいいプレッシャーになっているようです。社内報以外では、社内ネットワークも広報ツールとして活用しています。

 最近、全社員を対象に、健康に関する意識調査をメールで実施したのですが、70%から回答が得られました。事業主側からの呼び掛けもあっての数字ではありますが、社員の健康への関心の高さが現れた数字だと捉えています。

 また、ある一定の基準を超えた人に対しては、重症化予防プログラムを実施しているのですが、これは、社長の賛同のもと、社長名で実施しています。最初は抵抗を示す参加者が多かったのですが、プログラム実施期間が終わる頃には、ほとんどの人が「参加してよかった」とアンケートで回答しています。

 昨年、当健保組合では初めて保険料率をアップしました。その際、健保組合主導でも説明会は開きましたが、その前段階で、説明会の件を社長に話したところ、社長が各事業所で料率アップの必要性や健康への取組みの重要性についての話をしてくれました。また、分析結果や事業内容の報告に行くと「次はこれやろう!」と社長自らが保健事業に対して提案をしてくれたりもします。こうしたことからも、事業主サイドがいかに健保組合の運営に関心を持ち、協力体制でいてくれていることがお分かりいただけるかと思います。

ディスコ ▼

 健保組合と一緒に健康活動を推進し始めた当初は、社員から批判的な声もありました。しかし今では「経営方針の一環として、全社員に健康診断の結果を読み解く勉強をさせてくれるなんて、とてもいい会社だと思う」とか「本当にありがたい」と言った声が寄せられるようになっています。

──被扶養者家族の健診の受診率はいかがですか。

健保組合 ▼

 一昨年までは、健診実施の案内しかしておらず、40歳以上の被扶養者の受診率は20%程度でした。そこで、昨年から、健診を受けていない家族宛に受診勧奨を実施したところ、受診率は60%以上になりました。毎年必ず案内はしているのにもかかわらず、「今年、初めて健診の案内を見た」といった声もあり、やはり受診勧奨は大切だと痛感した次第です。どんな疾病も早期発見すれば治癒率も高いですし、家族が健康でないと社員の仕事にも支障が出ますから、やはり家族を含めての健康が重要です。被扶養者の皆さんも、毎年健診を受けることが習慣化するように、今年も昨年に引き続き、受診勧奨を実施しています。

 なお、被扶養者も、健診は社内でも受けられますし、社外の機関でも受けることもできます。そうした案内は、健保組合からだけではなく、事業主からも知らせてもらっています。

──何か課題はありますか?また、課題解決に向けて取り組んでいることがあればお聞かせください。

健保組合 ▼

 実施したい保健事業はたくさんあるのですが、今のところ健保組合の常勤役職員は3名しかいませんので、人手が足りないことが目下の課題です。ただ、私がもともと人事に籍を置いていたこともあり、今も人事と兼務していることから、「健保組合では今度、こういうことを実施します」と人事や総務に話をすると構えずに聞いてもらえるし、協力もしてもらえますので、この環境は非常にありがたいと思っています。

 また、工場勤務社員は喫煙率が高いなど、地域によって傾向が異なります。データ分析の結果、会社全体の課題というよりは、事業所ごとで異なる課題があることが分かったので、そうしたことを意識しながら各事業所を回り、課題解決に取り組み始めました。ちなみに今年は、高血圧、喫煙者、早食いの人が多い長野の事業所では、事業所に併設されている食堂でできることから始めています。例えば、塩分の多い味噌汁を野菜スープに変える日をつくってもらったり、早食いを防ぐために野菜を大きめにカットして食べごたえを出すなどです。来年はまた別の事業所で、その事業所の健康課題に沿った取り組みをしていく考えです。お金をかければ実施できることはたくさんありますが、まずは、お金をかけずにすぐに取り組めることから重点的に進めていくようにしています。

──健保組合の財政面についてはいかがでしょうか。

健保組合 ▼

 保険料収入に占める拠出金の割合が50%前後あるので、健保組合として苦しいのは事実です。ただ、幸いにも、ここ数年は会社の景気が良く、積立金があるので、財政はそこまで悪くないほうだと思います。しかし、会社の景気が悪くなると、一気に赤字になる可能性もあります。要するに、健保組合の財政は会社の景気に完全に左右されてしまうのですが、ほかに収入源がありませんから、それは仕方がないことだと思っています。そうなると、あとはいかに支出をセーブできるかの問題です。その取り組みとして、65歳以上の医療費を抑えるために、昨年から「シニアプログラム」というものを始めました。具体的には、勉強会を開き、無駄な医療費は使わないでほしいというお願いをしたり、その理由として拠出金の仕組みを説明したりしています。この成果かどうかは定かではありませんが、65歳以上の医療費については少しだけ抑えることができました。

 それ以外の支出というと、メインはやはり医療費です。重病ほど医療費が高くなりますから、重症化予防には今後も注力していきます。あとは、健康に対する意識の向上と、健診による重病の早期発見は、事業主と協力し合いながら、引き続き徹底させていきたい考えです。

──あしたの健保プロジェクトへのメッセージや今後に向けた抱負をお願いします。

ディスコ ▼

 弊社の経営陣は「健康経営は、経営トップがいかに健康に関する活動を推進できるかにかかっている」と考えています。つまり、健保任せの健康活動ではなく、事業主サイドも経営トップ自らが健保組合と足並みをそろえ、一緒に社員の健康に取り組むことが大事なのだと思います。「健康をベースにいい仕事をしたい(してもらいたい)」という思いは、社員本人はもとより、家族も事業主も健保も同じなのですから、皆が同じ方向を見て、歩を進めれば間違いなくいい結果につながると信じています。

健保組合 ▼

 別法人だからという理由で、事業主と健保組合に距離感があるところも存在するなか、当健保組合の場合は自然発生的にコラボヘルスが実現できている、非常にラッキーな例だと思います。経営陣が高い意識で、健康に対してお金や人材などの資源を投入することも大事だと思いますが、担当者同士もお互いのプロフェッショナルな部分を存分に活かして、より良い事業を展開していくことが大切です。健保だからこそ知り得る情報もありますし、その情報が事業主にとって有意義な場合もたくさんあるのですから、ディスコの例が他健保さんの参考になれば良いと思っています。

株式会社ディスコ サポート本部 安全衛生チームリーダー 石井 秀明さん
「弊社においては『健保に言われたから何かをする』といった感覚は皆無です。互いが対等に意見しあい、共に協力しあいながら、社員の健康維持に努めています」

株式会社ディスコ サポート本部 安全衛生チーム 渡邊 真奈美さん
「社内の巡回健診を受診される被扶養者の皆さんからは、『会社で家族の健診までしてくださってありがたいです』というお声をたくさん頂戴しています」

ディスコ健康保険組合 常務理事 兼 事務長 小沼 久実子さん
「事業主と風通しのいい関係のなかで保健事業ができることは、とてもありがたいこと。今後も社員の健康リテラシーのさらなる向上に向けて、健保としても尽力していきます」

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