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昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ

株式会社ワコール

 株式会社ワコールは、終戦の翌年の1946年に、塚本幸一氏によって創業されました。創業当初はアクセサリーの販売を行っていましたが、「和装から洋装に変わる」と時流を読んだ塚本氏は洋装に合う女性用下着の製造・販売に舵をきり、今日に至ります。同社の社是には「わが社は『相互信頼』を基調とした格調の高い社風を確立し、一丸となって世界のワコールを目指し不断の前身を続けよう」とあり、経営陣と社員の間には高い一体感が確立されています。健康経営においても、事業主、健保組合、労働組合が三位一体で取り組む同社の皆さんにお話を伺いました。

【ワコール健康保険組合の概要】
加入事業所数:6事業所(2016年3月末)
加入者数:7,463名(2016年3月末) ※被扶養者1,583名を含む

──いつ、どのような理由から、社員の健康づくりを始めたのでしょうか。


株式会社ワコール
人事総務本部 人事部 部長
長谷川 貴彦 さん

ワコール ▼

 特別な理由があって、急に何かを始めたわけではなく、1973年にワコール健康保険組合が設立されたときから、健保組合とともに社員の健康づくりに取り組んできました。ワコール健保組合の設立趣旨に「社員および家族の健康管理を従来の治療中心から健康開発、体力づくり、健診強化等の予防中心に脱皮し、積極的に健康管理を推進する」、「会社と労働組合が相協力をして、健康管理と健保組合の運営を行うことで、物心両面で会社と社員、社員の家族にとって大きなプラスをもたらす」と謳われているとおり、健保組合設立時からの考え方を、会社としても今日まで踏襲してきました。

 したがって、社員の健康づくりに取り組んできた理由をあえて言うならば、創業者である塚本幸一が「相互信頼経営」を標榜し、会社と社員が一体となって会社の運営に臨むことを大切にしてきたため、ということになります。それが健保組合の設立や、さまざまな保健事業につながり、当社の健康経営につながっているのだと思います。

──保健事業を実施するうえでの体制と、保健事業の具体的な内容についてお聞かせください。


ワコール健康保険組合
常務理事 柏木 裕之 さん

健保組合 ▼

 体制については、通常は会社の人事部が安全衛生法に基づいて担っている社員の健康管理を、ワコールでは、健保組合が会社から受託するという形で一手に引き受けています。つまり、計9名いる保健師も、全員が健保組合の所属になっており、レセプト、健診データ、特定保健データなども健保組合が管理しています。ただし、社員の健康づくりという意味においては、会社と健保組合と労働組合が三位一体となって推進しています。

 保健事業については、主に①定期健康診断、②生活習慣病予防、③メンタルヘルス対策の3つが大きな柱になっています。

  • ①健康診断

    定期健診に加えて、節目年齢ドック補助制度や個人別検診補助制度を設け、さまざまな疾病の早期発見に努めています。節目年齢ドックとは、40歳以上で5歳ごとの節目年齢を迎える社員を対象に、カラダのメンテナンスの機会として人間ドックやPETなどが受診できるよう、年に7万5000円を上限に費用を補助するものです。個人別検診は、40歳以上の被保険者を対象に、各人のリスクや生活習慣の気になることに合わせて、オリジナルで検診を受けられるというもので、年に2万5000円を上限に補助しています。


    乳がん検診車AIO

    なお、当社は男性社員900人に対して女性社員が5000人という、女性が非常に多い企業なので、定期健診の際に、婦人科検診(乳がん検診、子宮がん検診)も併せて受けられるような環境整備をしています。2015年度の受診率は乳がんが78.3%、子宮がんが64.2%と、高い水準になっています。当社では、乳がん検診車AIO(写真参照)を所有しており、定期健診時に受診できない事業所においては、このAIOを会社に横付けし、就業時間内に受診できるようにしていることが、高い受診率につながっているのだと思います。

  • ②生活習慣病予防

    特定保健指導を中心に定期健診の結果に基づいた事後フォローとして、食事面と運動面の指導を個別面談で実施しています。全国にいる外勤者(百貨店等の店頭勤務の社員)に対しては文書で指導しています。

  • ③メンタルヘルス対策

    今年度からストレスチェック制度が開始されたこともあり、現時点での受検率は9割を超えています。ストレスチェックを機に、気づきを促して受診につなげたり、ストレス解消の手立てをアドバイスしたり、職場との調整などをしています。健康相談の窓口を内部と外部に設け、相談しやすい環境を提供するようにしています。

──保健事業を周知するうえで、工夫していることはありますか。


ワコール健康保険組合
健康開発チーム課長・保健師
須山 有輝子 さん

健保組合 ▼

 内勤者に対しては社内イントラを活用しています。外勤者に対しては月に1度の給与明細と併せて『BA通信』という健康情報チラシを配布しています。こうしたツールを活用した周知活動も大切ですが、それよりも大切にしているのは、社員と健保組合の距離の近さです。健保組合を身近に感じてもらえることを意識しながら保健事業を展開していくことが、社員の健康意識の向上や気軽に健康相談をすることにつながると思うので、今後も社員にとって「身近な健保組合」を目指していきたいと思っています。

──事業内容に対する社員の皆さんからの反応と、保健事業の効果についてお聞かせください。

健保組合 ▼

 節目年齢ドックなどに対しては「充実した検診を受けさせてもらえるので安心できる」といった声が数多く聞かれます。また、健診結果に基づいた受診先を紹介したり、必要に応じて紹介状を作成したり、手取り足取りでケアをしていることもあり、「次のステップがとりやすくて助かる」という声も多いです。

 保健事業の効果については、年に1度の健診結果に基づいて「健康年報」を作成し、事業の評価をしています。ただ、社員の高齢化もあり、有所見率が低下するまでには至っていません。一方で、喫煙状況は改善しています。10年ほど前に、社内に禁煙外来を設置し、禁煙補助剤の費用を健保組合で補助するようになったことも、喫煙率は減少を促進したのではないかと思います。外勤者も、薬局で市販されているニコチンパッチ等の禁煙補助剤を購入すると、年に1万5000円を上限に補助が受けられるようになっています。メンタルヘルスでは、メンタル不調で休んでも長期化はしておらず、また、がんなどによる休業者も増えてはいません。さまざまな保健事業が早期発見につながっていると分析しています。

──健康経営銘柄2016に選定されたポイントは、どこにあるとお考えですか。

ワコール ▼


ワコールGENKI計画2020

 2015年4月に、経営陣、健保組合、そして従業員代表でもある労働組合の代表者から成る「健康経営委員会」を発足させました。
社員の健康づくりは経営マターであるとの考えから、このようなメンバー構成になっています。
健康経営を目指すために、まずは社長が健康宣言をして、同会の名のもとで「ワコールGENKI計画2020」を策定し、2020年までに達成したい数値目標を定め、活動を開始しました。

健保組合 ▼

 例えば、生活習慣病対策においては、2020年までに生活習慣病関連の有所見率(リスク指数)を25%以下にすることが目標です。がん対策においては、5大がん(肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、子宮がん)検診の受診率およびハイリスク者の2次健診受診率を100%にすることや、喫煙率を全社で15%以下にすることが目標として定められています。メンタルヘルス対策においては、メンタル不調による総休業の指数(休業人数×休業日数)を7000以下にすることを目標としています。こうした数値目標を達成できるよう、会社と健保組合と社員が三位一体になって、さまざまな施策に取り組んでいることが、健康経営銘柄に選定いただいた大きな理由だと考えています。

──ワコールGENKI計画2020に社員を巻き込むために、工夫していることはありますか。また、どのような思いで本計画に臨んでいますか。

健保組合 ▼

 1つは「健康マイレージ」を導入したことです。社員が楽しみながら自発的に自分の健康管理に取り組めるようKenCoM(ケンコム)さんに外部委託をしています。各自が設定した生活習慣改善チャレンジ目標を達成した場合などにポイントが付与され、獲得したポイントを商品に交換できるという仕組みです。また、健康マイレージとは別に、ワコール独自の「GENKIポイント」もあり、これは健診の結果が改善されたり、禁煙に成功した場合などに別途ポイントが加算されるというものです。こちらで獲得したポイントは、プリペイドカードと交換できる仕組みになっています。「ワコールGENKI計画2020」については、取り組み始めてまだ日が浅いので、具体的な効果はまだ出ていませんが、1年後あたりに期待したいところです。

 また、セミナー開催による健康啓発にも取り組んでいます。昨年は、弊社の婦人科の産業医に講師を依頼し、子宮がんセミナーを実施しました。今年は東京大学から医学博士を招き、がんに関する正しい知識や、早期発見の重要性についてお話しいただくことになっています。より多くの社員が参加できるよう、就業時間内外の両方で実施したり、後日DVDで視聴できるよう録画しておくなどの工夫をしています。

ワコール ▼

 健康づくりは、習慣によるところが大きいので、健康にマイナスな喫煙などの習慣は、やめる方向に誘導し、健康増進に必要な運動などは、それが習慣化するよう、工夫を凝らした施策で誘導していきたいです。

 なお、健康啓発につながるセミナー等の活動は、経営活動の一環と捉えていることから、就業時間内に実施しています。

──三位一体での取り組みには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

健保組合 ▼

 健康経営委員会が発足する以前は、健保組合が中心となって事業を進めていましたが、同会発足以降は、保健師が各事業所の安全衛生委員会や総務と連携し、意見交換をしながら、一体感を持って保健事業に取り組めるようになりました。9名いる保健師には、それぞれに担当する事業所があるので、よりよい結果に向けて、いい意味での競争心が芽生えていることもメリットだと考えています。

ワコール ▼

 各事業所の安全衛生委員会の委員長は、その事業所の人事または総務の部長クラスが兼務しているため、健康経営を推進するうえで、社員を巻きみやすい体制になったと思います。例えば、喫煙率を下げるために設けられている「禁煙タイム」も、各事業所の安全衛生委員会が中心になって実施しているため、社員もより高い意識で取り組んでいると思います。

 仮に、会社と健保組合が本気で取り組んでいる保健事業に対して、社員の意識が低いといった場合には、会社側が労働組合に協力を求めます。健康経営に置いて、三者が協力しあう関係にあることは、とても大きなメリットだと思います。

──抱えている課題についてお聞かせください。

健保組合 ▼

 店頭で仕事をしている販売員の健康開発や疾病予防に対して、どう取り組んでいくかが、大きな課題です。事業所の社員は、社内イントラや社内セミナーで健康について啓発される機会に恵まれていますが、販売員は勤務体系的にも地理的にも、そういう機会が著しく少ないのが現状です。販売員の喫煙率が高いといった実状もあるので、今後は、販売員の健康改善、健康維持に貢献できるような保健事業に取り組んでいきたいと思います。

 また、社員の高齢化に伴い、どうしても有所見率が高くなってしまう傾向にあるので、三位一体の強みを存分に生かして、効果的な保健事業を実施していきたいです。

──「あしたの健保プロジェクト」に対するメッセージや国に対する要望をお願いします。

ワコール ▼

 超高齢社会に突入したわが国にとって、社会保障制度の維持は喫緊の課題だと思います。社会の一員である企業が、その一翼を担うことは当然ですから、健康経営を含め、国が企業に求めることに対しては、当社も前向きに取り組んでいます。しかし、企業努力だけ改善できることには限界があるのではないでしょうか。国には、抜本的な改革案を示していただき、日本という国が直面している大きな課題に取り組んでいただきたい。

健保組合 ▼

 通常の保健事業であれば黒字でも、拠出金を含めると当健保組合も赤字となり、料率改定が避けられない状況です。しかし、予算確保のために料率を上げたり、拠出金の額を下げる交渉をすることだけに終始するだけが解決のすべてではないと思います。国民皆保険はなくてはならない社会インフラとして、健保組合自体が健康保険加入者にとって、もっと存在価値を高めるという企業経営的な感覚も必要だと思います。健保組合が顧客満足度の高いサービスを提供し、結果的に社員の健康が向上し、財政も改善できればと思います。

 また、「あしたの健保プロジェクト」で、ぜひ取り組んでいただきたいことがあります。それは、若い人たちの健康意識を強化するための活動です。ワコールも、若い人の健康意識は高いとはいえません。健保組合としても最大限の努力をしていきますので、若い人へのマスアプローチを「あしたの健保プロジェクト」で今以上に進めていただきたくお願いします。

株式会社ワコール 人事総務本部 人事部 部長 長谷川 貴彦 さん
「ワコールは、乳がんの早期発見を啓発するためのピンクリボン活動を長いこと推進してきました。その根底には、女性社員が圧倒的に多い会社として、当社の社員から乳がんの罹患者をなくしたいという経営者の強い思いがあります。社員の健康に対するこの思いを、婦人科検診のみならず、社員全体の健康づくりにおいても継承していきたいです」

ワコール健康保険組合 常務理事 柏木 裕之 さん
「定期健診や各種検診の受診率が高いため、早期発見率も高く、そのために医療費が増えているという見方もありますが、私どもの第一の目的は、『社員の健康』であって、『医療費の削減』ではありません。したがって、一時的な医療費の増減に一喜一憂することなく、さまざまな保健事業に着実に取り組む所存です」

ワコール健康保険組合 健康開発チーム課長・保健師 須山 有輝子 さん
「2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、国のほうでも建物内禁煙や事業所内禁煙に対する考え方を早めに明示していただけると、健保組合としては禁煙に向けた活動がしやすくなると考えています」

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